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キンマ香合
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キンマ香合(きんまこうごう)は、漆の塗面に彫刻刀で文様を彫り、その凹みに色漆を埋めて研ぎ出し磨き仕上げた漆器の合子を云ったもののようです。
キンマ(きんま)は、インドや東南アジアで広く栽培される檳榔樹(びんろうじゅ)の実を薄く切り、鬱金(うこん)の粉や香料と混ぜ合わせ、石灰を塗った蔓草の葉に包んで噛むものを、タイ語でキン(食べる)マーク(檳榔子)といい、この檳榔子を食べる意のキンマークが轉訛してキンマとなり、そのキンマを収める漆の入物をもさすことになったもののようで、竹を細く削ったものを巻き上げたり編み上げたりした素地すなわち籃胎 (らんたい)に黒漆を塗り、その表面に線文様を彫り、朱、緑、黄色等の色漆を埋め込んで研ぎ出したもので、タイ北部からミャンマーにかけてつくられており、これが日本にアユタヤとの交易を通じてもたらされ、そのおりにキンマという呼び名が定着したと考えられています。
キンマは、表千家に利休所持の蒟醤茶箱が伝来しており、桃山期かそれ以前には招来されたとされます。
キンマは、我が国では玉楮象谷により、天保四年(1833)はじめて作られますが、当初は「紅毛彫」とも「金馬」とも書かれていましたが、嘉永七年(1854)の「蒟醤塗料紙箱並硯箱」において「蒟醤」と書くようになります。
『大和本草』宝永五年(1708)刊に「長崎に来る暹羅人などのいへるは、彼国に客あれば先キンマ檳椰を出す。本邦にて煙草を用るが如し。また蚌粉をも少まじえ食すと云。本草にいへる蒟醤によく合へり。交趾東京にも亦如右すと云。今茶人の翫ふ香合にキンマ手と云あり、即異邦にて此物を入たる器なり。」とあります。
『和漢三才圖會』正徳二年(1712)成に「按蒟醤暹羅東埔寨交趾等南蛮人毎嚼吃之(如上方三味合)、貴賤客至則出之、如賞今時煙草。盛之器大小不等、而華美也。今香盒有稱蒟醤手者乃其器、而最重器也。倭名抄以蒟醤為木夭蓼(末太太比)和名者甚誤也」とあります。
『茶道筌蹄』文化十三年(1816)著に「蒟奨 安南にてキンマを入る器也、キンマの葉に檳椰子を包み石灰を付て食後に用る由、木地と籠地と二通りありて此器に似よりのものをキンマと云ふ」とあります。
『嬉遊笑覧』文政十三年 (1830) 序に「桂漿は蒟醤の轉訛、はしかほり堆黄などいへるは皆西皮をいふ、其作りやうに依てさまざまに呼しものなり、(桂海虞衡志)に南人檳榔を食ふ、其法石灰抹留藤と同く、咀ば澁からず、客あれば先小合の内を三室に沸きりたるに件の三色を入て出すことをいへり、是い今こゝにて客きぬればたばこ盆を出すに似たり、抹留藤は蒟醤の一名なり(蠻名にや)、西粤交趾もこれを好みて食ふよし、(廣東新語)にいへり閩も此風あること、(五雜俎)などにも見ゆ、(萬寳全書)など桂漿といへるは蒟醤にて是を入る小合を名づけてキンマと呼、これ又西皮の一種にて剔ぬものなり(今のつがる塗は是を學びたるものなるべし)、剔りたるも剔らざるも彩漆をかさねて塗りたるは其國の漆器に倣へるはみな西皮なり」とあります。
『重修本草綱目啓蒙』天保十五年(1844)刊に「檳榔 通名 一名椶然(通雅) 仁榔(類書纂要) 増、一名螺果、(格致鏡原引呉普本草) 梹榔(方書) 尖梹榔(同上) 和産ナシ、子ハ多ク舶來アリ、コノ木甚寒ヲ畏ル、熱地ニ非ザレバ産セズ、故ニ八閩廣州ニ多シ、時珍ノ説ニ、形状ヲ説コト詳ナレドモ、廣東新語ニ尤盡セリ、舶來ニ數品アリ、形長ジテ尖ル者ハ、鷄心檳榔ニシテ眞ノ檳榔ナリ、是ニ雌雄ノ分アリ、又形大ニシテ圓ク、扁キ者ハ大腹檳榔ニシテ即大腹子ナリ、藥家ニ檳榔トナシ賣ルハ誤ナリ、又形狹シテ兩頭尖リ榧實ノ如キ者アリ、是梭身檳榔ナリ、檳榔ハ味澀ク微シク甘シ、大腹子ハ甘味ナシ、釋名ノ下ニ、交廣人、凡貴勝族客、必先呈二此果一ト云ハ、本邦客來ニ茶煙盆ヲ出ト同ジ、廣州及南蠻ニテハ、檳榔ノ生ナルヲ果子トシ、客アレバ必出ス、檳榔ニ扶留藤ト瓦屋子灰トヲ加ヘ饗ス、コノ三味ヲ入ル器ヲ檳榔合ト云、桂海虞衡志ニ出、コノ器舶來アリ、茶人珍賞ス、大小アリ、大ナルハ高サ一尺許廣サモ同ジ、四角ニシテ三重、小ナル者ハ一器ニシテ三隔アリ、コレヲ香合ニ用ヒ、キンマデノ香合ト云、皆朱漆ニシテ黒漆ノ細畫アリ、又黒漆ニシテ朱ノ細畫ナルモアリ、扶留藤ハ芳草類蒟醤ノ一名ナリ、俗ニキンマト呼ブ、瓦屋子灰ハ蚶殼(アカヾヒノカラ)ノ灰ナリ、キンマノ葉ニ、コノ灰ト檳榔トヲ包ミ食ヘバ味甘シ、故ニ果子トス、享保年中ニハ、キンマノ葉ニテ二物ヲ包ミ、蜜漬ニシタル者渡ル、今モ稀ニ藥肆ニ貯ル者アリ、キンマ眞物ハ和産ナシ、今花戸ニフウトウカヅラト呼ブ者、コノ下品ニシテ漢名土蔞藤ナリ」
「蒟醬 キンマ(蠻名ナルベシ) 一名蔞(通雅) 荖葉(八閩通志) 相思葉(廣東新語) 辛蒟(通雅) 蒟給(同上) 無留藤(本草彙言) 芙蒥 (泉州府志) 蔞葉藤(廣輿記) 蔞藤(一統志) 嶺南ニテハ此葉ニ生ノ檳榔子ト蚌灰トヲ包ミテ果ニ充テ食フ、コレヲ入ルヽ器ヲ桂海虞衡志ニ檳榔合ト云、茶家者流ニテキンマデノ香合トテ弄ブモノ是ナリ、一器三室ノモノアリ、又三層ニシテ香撞ノ如キモノアリ、皆外ニ細ナル描花アリ、享保年中ニ、此葉ニテ檳榔ト蚌灰トヲ包ミ、蜜漬ニシタルモノ渡ル」とあります。
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